
まだ火を入れる前の
静かなキッチンで
わたしたちは
何も持たずに立っていた
それでも
ふたりのあいだには
ほどけないぬくもりがあって
触れていなくても
同じ体温に包まれていた
⸻
パンを焼くように
ゆっくりと
日々はふくらみ
ことばにならないやさしさが
香りになって
この部屋に満ちていく
その香りは
どこへも行かず
ふたりのあいだに
やわらかくとどまり続けていた
⸻
それは
ただ
ふたりでいるための時間
すぐそばで
息が重なり
そこにいることが
そのままひとつになっていた
それが
わたしたちの晩餐


